横浜地方裁判所 昭和46年(行ウ)23号 判決 1973年8月20日
川崎市大島町三丁目七〇番地
原告
桜井勝男
同所同番地
原告
桜井繁雄
右訴訟代理人弁護士
篠原義仁
同
根本孔衛
同
杉井厳一
同
児嶋初子
川崎市榎町二八番地
被告
川崎南税務署長 太田武
右指定代理人
宮北登
同
日隈永展
同
帯谷政治
同
並山喜美雄
同
勝又清
同
古谷栄吉
同
西山吉洋
主文
原告らの請求は、いずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、原告
「被告が昭和四四年九月二五日付をもつて原告桜井勝男に対しなした昭和四一年分、同四二年分および同四三年分所得税の更正の請求についての更正をすべき理由がない旨の通知処分はこれを取消す。
被告が昭和四四年九月二五日付をもつて原告桜井繁雄に対しなした昭和四二年分および同四三年分所得税の更正の請求についての更正をすべき理由がない旨の通知処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決。
二、被告
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
(請求原因)
一、原告桜井勝男は、タイル工事業を営み、原告桜井繁雄は、右勝男の従業員として給与の支払いをうけているもので、共にいわゆる白色申告者であり、川崎地区建設組合連合会に所属しているところ、右連合会事務局長小寺邦明は、昭和四四年七月一五日付の原告ら各自名義の修正申告書をもつて、原告らの所得税に関し、総所得金額を次のとおりとして修正申告(但し、原告桜井勝男の昭和四一年分、原告桜井繁雄の昭和四二年分については期限後確定申告。以下修正申告等という。)した。
桜井勝男 昭和四一年分 五〇万円
昭和四二年分 一〇〇万円
昭和四三年分 一〇五万円
桜井繁雄 昭和四二年分 六〇万円
昭和四三年分 八〇万円
二、しかしながら、原告らは右申告につき小寺事務局長に何ら委任したことはなく、従つて右修正申告等は、原告らに無断でなされた無効のものである。
三、そこで、原告らは被告に対し、昭和四四年八月二日、旧国税通則法(昭和四五年五月一日改正前のものをいう)二三条に基づき、右の修正申告等が無効であることを理由とし、更に修正前の自己申告記載の総所得金額が正しい旨を述べ、次のとおり更正の請求をした。
桜井勝男 昭和四一年分 四〇万円
昭和四二年分 六〇万円
昭和四三年分 八九万九、〇六六円
桜井繁雄 昭和四二年分 五〇万円
昭和四三年分 七〇万五、一二五円
なお桜井繁雄は、営業所得はなく、すべて給与所得である旨申し述べた。
四、これに対して、被告は、昭和四四年九月二五日、原告らに対し、原告らの更正の請求すべてにつき、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。そこで、原告らは被告に対し、昭和四四年九月三〇日異議申立をしたが、同年一二月二五日被告はこれを棄却したので、原告らは、更に、昭和四五年一月一三日、東京国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和四六年七月一九日、これを棄却(但し原告桜井繁雄の昭和四三年分については却下)した。
五、しかし、原告らの前記更正の請求に対する被告の処分は、原告らの所得を過大に評価し、また、無効な修正申告書等に基づいてなされた違法があるから、その取消を求める。
(請求原因に対する被告の認否)
一、請求原因第一項は認める。但し原告桜井繁雄が昭和四二年分以前に原告桜井勝男から給与の支払をうけていたことは不知。
なお、原告らは修正申告等に基づき、昭和四四年七月一九日増加税額を全額納付している。
二、同第二項は否認する。
三、同第三項は認める。
四、同第四項は認める。
五、同第五項は争う。
(被告の主張)
一、本件各通知に至る経緯
原告らの申告、更正請求およびこれに対する処理等の経過は別紙のとおりである。
二、本件各通知処分の適法性
被告が本件各更正の請求につき更正をすべき理由がないとしたのは、次の理由によるのであつて何ら違法の点は存しない。
1 更正の請求をすることができるのは、旧国税通則法二三条一項により、法定申告期限から二ケ月以内であるところ、原告らが更正の請求をしたのは、右期間をはるかに徒過した後であるので、本件各更正の請求は不適法である。
2 更正の請求が認められているのは、前記条項により、「当該申告書に記載した課税標準等もしくは税額等の計算が、法律の規定に従つていなかつたこと、または当該計算に誤りがあつたことにより、納付すべき税額が過大であるとき」等の場合であつて、本件のように申告が本人の関知しない間になされた無効なものであるということは、更正請求の理由たりえない。
以上のように本件通知をするにあたつては、原告らの所得金額の多寡はなんら判断の基準とはなつていない。
三、なお異議申立棄却決定も、審査請求棄却裁決も、前項の理由に基づくものである。但し、原告桜井繁雄の昭和四三年分については、原告桜井勝男の昭和四三年分の事後調査の結果に基づいて、被告は昭和四五年一月二六日付で職権をもつて原告桜井繁雄の所得金額を当初の確定申告額どおり減額更正したので、審査請求の利益がないとして却下した。
(被告の主張に対する原告の認否及び反論)
一、原告桜井繁雄の四三年分につき事後調査がなされ、当初の確定申告額どおり減額更正されたこと、その結果同原告の審査請求がその利益なしとして却下されたことは認める。被告は右減額更正は職権によりなした旨主張するが、それは形式上の便宜的措置に過ぎず、実質上は同原告の右審査請求を認容するものに外ならない。
二、被告は異議申立棄却決定の理由として、原告らの更正の請求の期限徒過のみを挙げているが、前記小寺事務局長のなした修正申告等が形式要件を具備した適法なものであることも右決定の理由とされているのであり、また原告桜井繁雄の四三年分の審査請求については、却下裁決ではあるものの、前記のように同原告の同年分の所得金額の内容判断がなされているのであり、本訴において今更右修正申告等の無効の主張が更正の理由になじまないとか、原告らの各年度の所得金額の内容判断に立入れないとするのは、信義則上許されない主張である。原告らは、右申告書の無効による違法をいうとともに、総所得金額についても更正を求めているのであるから、更正の請求の通知処分にあつては、右金額内容の判断も行わなければならない。
第三証拠
一、原告ら
乙号各証の成立は認める。
二、被告
乙第一ないし第五号証
理由
一 昭和四四年七月一五日付で原告ら主張のような所得税修正申告等がなされたこと、これらの申告について原告らが、同年八月二日、各年分につき更正請求したこと、これに対し被告が、同年九月二五日、原告らに対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をなしたことは、当事者間に争いがない。
二 旧国税通則法(昭和四五年五月一日改正前のもの)二三条一項によれば、更正の請求をすることができるのは、当該申告書にかかる国税の法定申告期限より二月以内である。しかして原告らの所得税確定申告期限は、所得税法一二〇条一項がその年分につき翌年三月一五日と定めているところであるから、昭和四二年分の更正請求の期限は翌四三年五月一五日四三年分のそれは四四年五月一五日、四四年のそれは四五年五月一五日であることが明らかである。しかるに、成立に争いない乙各証によると、原告らの更正の請求は、いずれもその提出期限をはるかに徒過してなされていることが認められる。そうすると、原告らの更正の請求につきこれを不適法として、更正をすべき理由がない旨通知した本件各処分は正当であり、何ら取消すべき違法はない。
したがつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本通知処分の取消を求める各請求は失当であり、いずれも棄却を免れない。よつて民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 新田圭一 裁判官 島田充子)
別紙
(一) 昭和四一年分 桜井勝男
申告状況等の経過
<省略>
<省略>
所得金額の内訳
<省略>
<省略>
(二) 昭和四二年分 桜井勝男
申告状況等の経過
<省略>
<省略>
所得金額の内訳
<省略>
(三)昭和四三年分 桜井勝男
申告状況等の経過
<省略>
所得金額の内訳
<省略>
(四) 昭和四二年分 桜井繁雄
申告状況等の経過
<省略>
所得金額の内訳
<省略>
(五) 昭和四三年分 桜井繁雄
申告状況等の経過
<省略>
所得金額の内訳
<省略>